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東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所

リレーエッセーESSAY

本研究課題の研究員が、月に1回交替で執筆する「リレー・エッセー」のコーナーです。
(写真の著作権は撮影者にあります。無断・無許可でのご使用は固くお断りします。)

2013年8月
シンガポールのハラール・レストラン事情
福島康博



 華人国家というイメージの強いシンガポールであるが、総人口およそ546万人のうち、15%に相当する約80万人がムスリムである。ムスリム人口の民族別内訳は、大半はマレー人であるが、インド人や華人、アラブ人ムスリムもいる。そこで気になるのが、ムスリムにとっての食の禁忌であるハラール食品、とりわけハラール・レストランの現状である。


 ブギス地区にあるサルタン・モスク(Masjid Sultan)は、1824年に建設されたシンガポール最大のモスクである[写真1]。イスラームに関連する観光スポットとして多くの観光客を集めているが、同時に日常の礼拝や婚礼も執り行われる現役のモスクでもある。



[写真1] サルタン・モスク


 このモスク周辺に点在するのが、ハラール・レストランである[写真2]。看板の右側にHALAL(ハラール)と書かれているが、これはシンガポールのハラール認証機関であるイスラーム宗教委員会(Majlis Ugama Islam Singapura)が発効したハラール・ロゴである。同委員会は、ムスリム法運用法(Administration of Muslim Law Act)に基づいて設置された機関で、モスクやハッジの管理、ファトワーの発行とともに、ハラール認証を行っている。同委員会の審査に合格したレストランは、このハラール・マークを掲示することができる。写真のレストランの場合、シンガポールのローカル料理ではなく中東・地中海料理がメインのようだが、もとよりムスリムの多い中東の料理なので、ハラールとの親和性は高いといえよう。



[写真2] ブギス地区のハラール・レストラン


 イスラーム諸国由来の料理を提供するレストランにとっては、ハラール認証は確かに取得しやすいだろう。しかしながら、ハラール認証を取得するための基準が明確に定められているので、これに従ってブタやアルコール由来の成分・食材を排除すれば、どのような料理のレストランでもハラール認証を取得することができる。こちらの写真[写真3]は、ブギス地区にある中華料理レストランのメニューである。麺類を中心に雲?や豆腐など典型的な中華料理の写真に混じって、ハラール・ロゴを見つけることができる。ブタやアルコール由来の食材を使用していない中華料理、ということなのだろう。他にも、シンガポールでは欧米発祥のファストフード・チェーン店がハラール認証を取得している例もみられる。



[写真3] ブギス地区の中華料理レストランのメニュー


 ハラール認証においては、その料理がどこの国に由来するのかではなく、イスラームに反する食材の含有・接触が問われる。そのため、何の料理であっても認証取得は可能である。アラブ料理はもちろん中華料理にファストフードであっても、ハラール・マークのあるレストランなら、シンガポールのムスリムは安心して食事を楽しむことができるのである。





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