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東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所

リレーエッセーESSAY

本研究課題の研究員が、月に1回交替で執筆する「リレー・エッセー」のコーナーです。
(写真の著作権は撮影者にあります。無断・無許可でのご使用は固くお断りします。)

2013年11月
オマーンの最新ファッション事情
大川 真由子


 日本人にとっては真っ黒なカラスの集団にみえるかもしれない湾岸女性の衣装アバーヤ。わたしの学生からも「湾岸の女性はおしゃれができないのでは?」という声をもらうこともあるが、そんなことはない。アバーヤの下はピチピチの派手な衣装を着ていることは知られているところだが、日本と同様、湾岸でも流行しているH&MやForever21など欧米のファストファッション店で購入した洋服を着ている若者は非常に多い。一般的なのはノースリーブのTシャツにスキニーパンツだ。だが、贅沢なおしゃれはなんといっても作りの凝ったアバーヤを着ることである。


 裕福な女性は、ショッピングモールに入った高級アバーヤ専門店で購入する。代表的なのは、湾岸で店舗を展開するアル=ムタハッジバ(al-Mutaḥajjiba)やハナーイェン(ḥanāyin)というブランドで、装飾なしのプレーンなものだと30リアル程度(7800円)からあるが、クリスタルやプリーツが入ったデザインだと最低でも100リアル(26000円)はする。アバーヤとスカーフはおそろいで購入するものなので、両方購入すると相当な金額になる。店で購入したプレーンなアバーヤに、追加料金を払ってスワロフスキーのクリスタルなどで装飾をつけるセミオーダーも可能だ[写真1]。



[写真1] 高級アバーヤ店に陳列されるアバーヤ


 それほど広くない店内、そしてあまりやる気があるとは思えない店員。客もひやかし程度にしか入店しないのかと思いきや、ムタハッジバの2013年2月の売り上げは27000リアル(約700万)だったという。衣料品の購入が集中するラマダーンやイードにもあたらない月にこれほどの売り上げがあるということは、高級アバーヤもけっこう売れているということだ。


 だが、この手の店で購入できる女性はそうそう多くはない。それでは庶民はどうするか。首都マスカットやドバイのスークでアバーヤ生地と、スパンコールやクリスタルなどのパーツを安く仕入れ、地元のテイラーにもちこむのである。テイラーが集中しているマスカットのマトラフ地区だと、生地をもちこめばプレーンタイプのアバーヤだと8リアル(2000円)、デザインものだと25リアル(6200円)が相場だというので、モールに入っている高級店で買うよりだいぶ安く済む[写真2]。



[写真2] アバーヤ専門のテイラー(マスカットのマトラフ地区)


 なぜ、ドバイで仕入れる女性が多いのか。いくつか理由がある。第一に車で片道4時間の距離なので週末を利用して買い物に行ける距離だということ。第二にGCC市民ということでパスポートも入国料もなしで行き来できること。第三にドバイは商品が豊富で安いということ。これが最大の理由である。したがって、イードなどまとまった休みのときにはドバイまで買い物をしに家族で出かける人は多い。滞在はアパートメントホテルに家族全員で泊まり、食事も外食せずホテルで自炊するから安上がりである。湾岸はガソリンも安いので、旅費・滞在費を差し引いてもドバイの物価の安さと品揃えの豊富さは魅力ということだ。


 さて、アバーヤにも流行はある。最近のトレンドはゆったりとしたデザインである。10年以上前、比較的細身のAラインのアバーヤが流行ったこともあったが(フランス式と呼ばれた)、ここ数年はバハレーニー(バハレーン式)と呼ばれる型が人気で、翼を広げた蝶のように袖下がたっぷりとしている[写真3]。その中でも、通常のアバーヤより丈が短く、中央に向けてシャーリングがきいているドバイモデルなるものが最先端なのだという[写真4]。なぜ丈が短いのか。それはスキニーパンツとヒール靴をはいた華奢な足下を見せ、「女らしさ」をアピールするためである。バハレーン式のほか、もうひとつのトレンドはウエスト周りにリボンやベルトが付いたアバーヤだという。なるほど、街を行くおしゃれ女性に見受けられる。3年前は目にしなかったデザインである。



[写真3] バハレーン式アバーヤ



[写真4] 丈が短いドバイモデル(中央)


 ちなみにアバーヤの「型」には国名が使われることが多い。2009年に流行ったスタンドカラーのアバーヤは「シーニー(中国式)」とか「ヤーバーニー(日本式)」と呼ばれた。またアバーヤの前身ごろがカーディガンのように開いているものと、閉まっていて頭からかぶるものがあるが、後者は「サウーディー(サウジ式)」と呼ばれている。今人気のバハレーン式、かつて人気だったフランス式しかりである。

 テイラーの客は、どのように自分の好みのデザインを伝えるのか。オマーンでほとんどのスマホ利用者がインスタグラムという画像共有アプリを使っている。フェイスブックやツイッター、Flickrといった他のSNSで共有できるので、利用者はアバーヤ店を検索し、自分のお気に入りの画像をみつけ、テイラーに直接見せるというのだ。わたしが入店したとき、テイラーはちょうどこの画像をみて生地を裁断しているところであった[画像5]。わたしの周囲でも、この「アバーヤブティック(The Abaya Boutique)」というオンラインショップのサイトは人気である。インスタグラムだけでもフォロワーが2万人を超えている。



[写真5] 客からもちこまれたアバーヤブティックの画像


 オマーンの女性は、欧米系ファストファッションが流行している中でも、伝統的なテイラーに年に数回足を運び、みずから生地とパーツを仕入れ、SNSという現代的な方法を用いてオーダーしている。そして多くの女性がイスラーム的なファッションであるアバーヤを着用しつつも、足下を見せるデザインや、ウエストをマークするようなベルトの付いたアバーヤを選択したりと、自分なりのおしゃれを楽しんでいるのである。


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