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東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所

リレーエッセーESSAY

本研究課題の研究員が、月に1回交替で執筆する「リレー・エッセー」のコーナーです。
(写真の著作権は撮影者にあります。無断・無許可でのご使用は固くお断りします。)

2013年12月
サウジアラビアのイスラーム銀行
上山 一


 サウジアラビアでは、金融機関が利息の受け取りや支払いを行うことは認められていない。それでは、同国の金融機関は、利息に代わって、どのような形で対価を得ることにより銀行経営を行っているのであろうか。同国の商業銀行は、利息の代わりに、手数料を受け払いすることによって預金・貸出業務を行う。しかし、多くの場合、「手数料」の実体は確定利付債から得られる利益であり、利息と何ら変わりがなかった。

 1940年代に首都リヤドを地盤に両替商を開いた「アッ=ラージヒー両替商」は、1970年代に入り、国内の金融市場でその勢力を急速に拡大し、国内最大の両替商にまで上りつめた。当時、両替商は、サウジアラビアの金融市場において、その規模を急速に拡大していった。その背景には、サウジアラビアが労働力の多くを外国人に依存しており、外国人労働者は出稼ぎ資金を本国に送金するため、銀行よりも手数料が割安な両替商をしばしば利用していたことがあった。これに加えて、両替商が、イスラーム金融方式に基づき、預金を集めていたことも挙げられる。当時、商業銀行が行っていた利付き金融方式に対して拒否感を持つ人びとは、両替商を預金先として選択したのである。

 両替商が預金を受け取ることは禁止されていたものの、実際には、多くの両替商が小口預金を集めていた。両替商に対する規制は、一般の商業銀行に比べて緩やかであり、両替商が金融市場での存在感を増すにつれて、商業銀行による不公平感は高まった。そこで、サウジアラビア通貨庁は、両替商を許可制とし、預金業務に対する規制強化を図った。

 こうした状況を受けて、「アッ=ラージヒー両替商」は、イスラーム銀行としての免許申請を行った。サウジアラビア通貨庁は、商業銀行としての操業を認めたものの、「イスラーム銀行」を名乗ることを認めなかった。いずれにしても、「アッ=ラージヒー両替商」から改称した「アッ=ラージヒー銀行」【写真1】は、事実上、「サウジアラビア初のイスラーム銀行」として操業を開始したのである。


【写真1】アッ=ラージヒー銀行

 「アッ=ラージヒー銀行」の設立以降、1990年代を通じて、銀行市場への新規参入は認められなかった。しかし、2004年に入り、サウジアラビア通貨庁は商業銀行の操業許可を久しぶりに認め、2005年には、「アル=ビラード銀行」が実質的なイスラーム銀行として操業を開始した。翌年には「アル=インマー銀行」が操業許可を認められた。また、「アル=ジャジーラ銀行」は、2002年、銀行業務をイラーム金融方式に全面的に転換したと発表した。さらには、ジェッダを本拠にする中東地域最大の商業銀行であるナショナル・コマーシャル銀行【写真2】は、2005年に個人・中小企業向け銀行業務部門を全面的にイスラーム金融方式に転換することを決定した。


【写真2】ナショナル・コマーシャル銀行

 さて、サウジアラビアでのイスラーム銀行をめぐる問題について、「アッ=ラージヒー銀行」を中心に見てきたが、そもそも、商業銀行がイスラーム金融に特化したイスラーム銀行であるかどうかを見分けるための明確な判断基準はあるのであろうか。サウジアラビア通貨庁がイスラーム銀行を名乗ることを認めていない以上、法規制上の明確な基準はない。ただし、イスラーム銀行と非イスラーム銀行とを見分ける方法がないわけではなく、その単純な方法は、銀行が発行する財務諸表を見比べることである。例えば、バランスシートの資産の部に記載されている融資項目の詳細を見ると、イスラーム銀行の場合、イスラーム金融で認められた運用形態と運用額が記載されている。その一方、非イスラーム銀行の場合、貸付金の総額しか確認することができず、「貸付金はイスラーム法に基づく金融商品を含んでいる」と記載されているのみである。つまり、後者の場合、銀行内にイスラーム銀行部門を持っているが、イスラーム金融に基づく運用額は少額であり、利付きの融資が運用額の多くを占めていると考えられる。こうした判別方法は、サウジアラビアにおいて、イスラーム銀行と非イスラーム銀行とを見分けるための一つの方法であり、その具体的な経営内容に着目し、各銀行におけるイスラーム金融への対応を考察することも重要である。この点は、サウジアラビアにおける次回調査での課題としたい。


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